早朝 学生寮屋上にて
青く澄んだ空を見上げている一人の金髪の青年は、誰も居ない静かな学生寮の屋上で気難しそうな顔をしていた。
肩まで伸びた長い金髪は風でユラユラと揺れている。
「能力育成専門高等学校ねぇ…」
俯きながら青年は呟いた
能力育成専門高等学校 星盟学園
全国から集めた中学を卒業した子供を集め超能力の覚醒、育成を行う謎で奇怪な高校である。
そんな危なっかしい高校に行く者など居るのか?と、思う人も多いことだろう。
だが、現に居るのだ
星盟学園はトップ近くにまで昇る優秀校であり構内の設備はかなり良い。
が、星盟学園に入学すると卒業まで家に帰る事はできない、そのかわりかなり充実した生活がおくれるのだ。
だが理由はこれだけではない、単純に超能力を憧れる者も居る。
そうこの青年のように
「なんで…なんでよりによって俺だけが能力覚醒しないんだよ…」
青年の頬に一粒の涙が流れる。
前代未聞である。今まで微弱な能力でも様々な人が覚醒してきたのだ。彼のように全く身につかない者は居なかったのである。
青年は小さく嗚咽を漏らす。
そんな中足音がしてきた。階段を登ってくる音である。
「ッ…!ヤベッ…」
青年は慌てて涙を拭き取った。泣いてるところは誰にも見られたくないのだ。
ガチャッと学生寮から屋上に繋がる扉が開いた。
「…月村君…?」
扉を開けたのは見慣れた茶髪の女の子だった。
早朝 調理室にて
ある雲一つない晴れた日の朝早くから、俺は職員室に居る。
全く教師とは大変な物だ、本来ならばまだ寝ていられる時間から起きて仕事をしなければならないのだから。
「めんどくせぇ……。」とつい思っていた事が口から滑ってしまう。
幸い、俺の独り言を聞いていた者は居なかったようだ。
そういえば何故俺は教師を始めたんだっけ……思い出せない……大切な事の筈なのに……
ここ数年の記憶以外何も覚えていやしない。
困った物だ、この目元の刻印には……。
腹が減ったから仕方なく調理室に移動し、『職員共有冷蔵庫』に手をかける。
丁度パフェ一つ作る分の材料は入っていた。
『暇があればパフェを作る』
……いつからだろうか、このような暇潰しをするようになったのは。
学生時代に関係しているような気がする、そう思えるのはパフェを作るとき、いつもセミロングの黒髪のセーラー服姿の女の子が頭に思い浮かぶからだ。
女の子の事を思い出そうとする。
だが、思い出そうとするとそれを遮るように目元の刻印が痛み、頭痛や目眩、吐き気を引き起こす。念の為医者にも見てもらったが体には何の異常もないらしい。
……やはり何か大切な事を忘れている気がする……教師になる前の23年間の記憶……俺の体に一体何が起こってるんだ……。
そんな事を考えていると調理室の扉が突然勢い良く開いた。
開いた主は高身長でスラリとした細身の体、鼻の頭まで伸ばしている金髪の前髪、口には煙草に腰ポケットには缶コーヒー。
ただでさえDQN要素満載なのに頭部には西洋風の甲冑を被っている。
誰がどうみてもただの不審者だ。
そんな不審者の彼の名前は『デュレスト・ロイヤ』。
名前から分かると思うが彼は日本人では無い、だが何処出身なのか彼自身覚えていないそうだ。彼は23のとき、気づいたら日本に居たらしい。
面白い話だ、俺と全く同じ時期から前の記憶が全く無いらしい。
そのような似た現象が起きている者同士で彼、デュレスト・ロイヤとは良い仲となった。
そんな彼は何を急いで来たのだろうか。
その答えはすぐにでた。
「おい銀河‼︎おま、今日の早朝職員会議とっくに始まってるぞ‼︎‼︎」
やってしまった。またこれだ。
どうやら俺、蠍夜銀河は、考え事をしていると時間を忘れるらしい。
久し振りの大遅刻の様だ。
こうしてまた、俺の『今日』が始まった